いやな男
ベストドレッサーコンテストに、今回は姉のミレーユが出場すると聞いて、
普段は興味ないと言って館周辺を散策しているテリーも、珍しく観客席についていた。
「ハッサン、あんた体でかいから後ろの席が見えないってさ。立ち見にしてくれないか」
隣の席に窮屈そうにしながら腰掛けているハッサンに向かって、テリーは言った。
相も変わらず辛辣な物言いのテリーに、
ハッサンは何か言い返そうと口の中をもごもごとさせていたが、
仲裁に入ってきたレナートとアモスが、
俺達も立ち見だから一緒に来いよ、となだめると、
聞こえよがしに舌打ちをし、いやなヤローだ、と吐き捨てると、
三人で後ろのほうへと引いていった。
去っていくハッサンの大きな後姿を見ながら、ふっと鼻で笑うと、
「ハッサンっていいやつだな。案外素直に行ってくれたよ」
と、隣のチャモロに顔を向けずに言った。
チャモロは、反応に困ったように苦笑している。
「ひゃー、はじまっちゃう、はじまっちゃう!」
そこへ、慌しくバーバラがやってきた。
先ほどまでハッサンの座っていた椅子に急いで座ったが、すぐに腰を浮かせ、
なんだかこの椅子生暖かい、と眉を顰めた。
「せっかく空いたんだから、座れよ」
テリーがそう言うと、バーバラはスカートを念入りに太腿の下に入れながら、
おそるおそる腰掛けた。
息を落ち着かせると、早速、おしゃべり好きのバーバラは、
無口なテリーにお構いなしに話しかける。
「ミレーユのドレスを着せるの、手伝ってたの。
ミレーユ、すっごく綺麗よ!優勝間違いなしね」
そう、楽しげに話すバーバラ。
テリーは視線こそ目の前のステージから外さなかったものの、
その横顔は少し得意になって、緩んでいるようだった。
「そうだな。案外ここのコンテストってやさしいみたいだぜ。姉さんなら楽勝だろ」
「そういえばテリーも優勝したことあるんだってね」
そう感心したように言うバーバラに、テリーは怪訝そうに眉を顰め、振り向いた。
「…どうして知ってるんだ」
「だって、あっちにいる女の子が言ってたもん」
バーバラはそう言ってステージの正面側の席を指差したが、
何しろ混雑していて、誰のことだか分からない。
テリーは目を凝らしてみたが、すぐに興味なさそうに前に向き直り、ふぅん、とだけ言った。
バーバラの口がいたずらっぽく、にんまりと笑みの形を作る。
「テリーのこと、素敵だって言ってたわよぉ〜。このっ、ニクイね!」
「やめろよ」
からかって指先で脇腹をつついてくるバーバラの手を、
テリーは無表情に払いのけながら言ったが、
声色から、なかなかまんざらでもなさそうだった。
「テリーが行った事のある街って、大体噂になってるのよね」
「噂って何だよ、嫌だな」
「そりゃ、女の子たちが噂してるのよ!かっこよかった、もう一度会いたい、って。
アークボルトもそうだし、サンマリーノにもそんなような子がいたわ」
「俺は全然相手のことを覚えてないのに、そういうふうに言われるのも妙な話だ」
全く会話に加わっていなかったが、
テリーの右隣に腰掛けているチャモロが、さり気なく聞き耳を立てている。
バーバラは腕を組んで、首を傾げる仕草をした。
「そう、それよねぇ。大して関わってもないだろうに、皆あなたのこと好きになってる。
一体どういうことなの?羨ましいなぁ、何か秘訣でもあるの?」
そう、不思議そうに尋ねてくるバーバラに、テリーは呆れたように笑った。
「秘訣なんて。俺が何か気の利いたことなんてしそうに見えるか?」
「ううん」
思い切り首を横に振ったバーバラに、そこまで否定しなくてもと思いながらも、
そうは言わずに、だろ、とだけ言い、バーバラと同じように腕組みをした。
そして、ゆっくりと足を組みながら、でも、と宙を仰いだ。
「確かに言われてみれば…気がつくと皆、俺のことを好きになってる」
「きゃーっ、嫌だ!言っちゃったよこの男!いやな男!」
いやいや、と言いながらも、バーバラは楽しそうにきゃっきゃと騒いでいる。
「ほーんと、しょってるわね!一体どこから出てくるの、その自信は!」
「だって本当のことなんだから仕方ないだろ。
これだけ一緒にいても俺のことを好きにならないのなんて、おまえくらいだ」
げらげらと笑っていたバーバラだったが、少しずつ、笑い声を小さくしていった。
表情は、笑い終わる前から既に硬直をはじめていた。
「それとも、そろそろ好きになる頃かな」
ふふん、とでも言いそうな表情でバーバラを横目に見、そうテリーは言った。
そのとき、わっと会場が湧いた。
「はじまるみたいだぜ」
テリーは既に何事もなかったかのように、口笛を吹いた。
バーバラは既に、コンテストどころではなくなっていた。
「…ほんっとう、一体どこから、そんな……なんて男なの」
そう小声でぶつぶつ言いながら、
ステージ以外にライトが当たっていないことを幸いに思った。
このうえ、真っ赤になった頬をこの男に見られるのは、
屈辱としか言いようがなかった。
そして、テリーの右隣では、秘訣ってこれか、と後学の為に聞いておいた二人のやり取りを、
興奮気味に深く心に刻み込む、若き僧侶の姿があった。
fin.
20080917
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